書籍紹介

フタバスズキリュウの名は?

『フタバスズキリュウ もうひとつの物語』(佐藤たまき 著)
シゼンノ編集部
フタバスズキリュウとは

フタバスズキリュウというと、団塊ジュニア以上の世代にとっては馴染みの深い(あるいは、懐かしい)古生物ではないでしょうか。
1980年に公開された映画『ドラえもん のび太の恐竜』に登場する首長竜・ピー助は、フタバスズキリュウの子供という設定でした。それだけ当時は全国民的に馴染みのある存在だったわけです。

フタバスズキリュウの化石が発見されたのは1968年。
福島県いわき市にある双葉層群という地層から、当時高校生だった鈴木直氏によって発見されました。(「双葉」層群から「鈴木」氏が発見したので、フタバスズキリュウと名付けられたわけです。)

このフタバスズキリュウは、日本の古生物学史上、エポックメイクな存在でした。
というのも、それまで日本では恐竜などの大型の爬虫類化石は産出されないと考えられていたため、大型海棲爬虫類である首長竜・フタバスズキリュウの化石発見は、日本の古生物学や恐竜学に新たな可能性の光を当てたのです。
これがきっかけとなり、日本では第一次恐竜ブーム(首長竜は恐竜ではありませんが)が起こりました。
(フタバスズキリュウの発掘から一般公開までの話は、長谷川善和『フタバスズキリュウ発掘物語』に詳しく記されています。)

『フタバスズキリュウ もうひとつの物語』

今回ご紹介する書籍『フタバスズキリュウ もうひとつの物語』(佐藤たまき 著)は、このフタバスズキリュウに関する再発見とも言える研究についての物語です。
実はフタバスズキリュウは、発見から38年間、正式な学名がつけられていませんでした。フタバスズキリュウという名前は、学術上の名前ではなく日本での通称のようなものなのです。

学名というのは、その個体が新種であることを論文(記載論文といいます)として発表して初めて名付けることができるのですが、フタバスズキリュウについて発見当時から研究に当たっていた長谷川善和氏の手が回らず、論文化できないままに21世紀に突入してしまったようです。
長谷川氏は、当初からフタバスズキリュウは新種であると直感していたそうですが、具体的にそれがどの部位から判断できるのかをまとめ、論文として発表しなければ学名をつけることができません。
この状況が動いたのが2003年。長谷川氏に加え、海棲爬虫類化石に詳しい真鍋真氏、本書の著者である首長竜の専門家・佐藤たまき氏の3名体制で記載論文化が進められ、「具体的にそれがどの部位から判断できるのか」の検討・検証がおこなわれた結果、新種としての「再発見」に至るわけです。
こうして、記載論文は2006年に無事発表されました。

本書は、まさにこの記載論文のための研究の様子や、そこに至る著者自身の生い立ちや研究生活について綴った自伝的作品です。
著者が学生の頃は、古生物学研究の道へ進む女性は少なく、そんな時代環境下においていかに進路選択に取り組んだのか、ということから始まり、大学院や留学先での出会い、研究、そしてフタバスズキリュウの研究へと話が展開していきます。

巻末には、フタバスズキリュウの化石発見者である鈴木氏や、記載論文の共同執筆者である長谷川氏や真鍋氏との対談も収録されており、肩肘張らずに気楽に読める本です。
また、研究者への道を歩みたい中高生にとって大いに参考になるのはもちろん、化石好き、恐竜好きの大人が読んでも楽しめる、フタバスズキリュウ記載論文の裏側を知る恰好の一冊です。

前出の『フタバスズキリュウ発掘物語』と併せて読むことで、より立体的に理解することができますので、併読を強くお勧めします。


余話

フタバスズキリュウの全身骨格標本(レプリカ)は、福島県のいわき市石炭・化石館と東京・上野の国立科学博物館日本館に展示されています。
まだ見たことがない方はもちろん、すでに見たことがある方も、本書を読んだ上で現物を観察すると新しい発見があるでしょう。ぜひ訪れてみてください。


2021年04月26日
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