書籍紹介

女子高生が鉱物採取にハマる?!

『瑠璃の宝石』(渋谷圭一郎 著)
シゼンノ編集部

 


202011月におこなわれた東京ミネラルショー。

広い催事スペースには学術機関からスピリチュアル系まで様々なブースが立ち並び、鉱石や化石が所狭しと販売されていた。

 

その中にあって異彩を放っていたのがKADOKAWAのブース。なんと、コミック『瑠璃の宝石』(20219月現在、コミック誌『ハルタ』にて連載中)の専門ブースである。紙しか売っていないブースは、広い会場にここ1箇所だけである。

 

一見すると、ミネラルショーに有っては違和感のあるブースなのだが、実はむしろ納得の出展なのである。

本作はまさに、ミネラルショーに集うような人々にこそ楽しまれる作品なのだ。

 

 

女子高生×女子大学院生×鉱物

 

鉱物採取を作品のテーマとして扱う連載コミックは非常に珍しいのだが、『瑠璃の宝石』は、そんな珍しいテーマを扱ったコミックだ。

宝石やアクセサリーが好きな女子高生ルリが、鉱物学を専攻する大学院生ナギと出会ったことをきっかけに、鉱物採集の世界にのめり込んでいく姿を描いた作品である。

 

物語は、砂金や宝石を自力で集めたいルリと、それを学術的な知見でサポートしつつ学際的なアプローチをも指導するナギ、そして途中からは、ナギと同じ研究室の後輩でドジっ娘的役回りの伊万里という構図で進められる。

 

コミック作品の世界ではよくあるストーリー展開として、初心者である主人公の女子高生が、その道の先達の手ほどきや指導を受けながらマニアックな世界にハマっていく姿を描くという構図がたびたび見受けられる。

が、その「ハマっていく」ジャンルが鉱物採取・研究となると、先例が無いのではないか。

 

作中、ときには1話全部が研究室の中で終わることもあるが、多くの場合、様々な場所へと出かけて行って鉱物を採取する。

その場所は非常に様々で、廃坑、川岸、海岸、山の中など、自然石がある場所ならおよそどこにでも出かけて行くアクティブさだ。

 

そこでは、ナギという良き先導者を得た初心者ルリが、初期衝動(この場合なら「宝石や砂金がほしい!」)で闇雲に探し回るフェーズから、次第にその奥に広がる鉱物の世界、そしてその鉱物を作り出す地球環境へと、どんどん視野が広がっていく様子が読み取れる。

 

 

作品の世界観の背景を知る

 

作者の渋谷圭一郎さんは、大学生のときに鉱物学を選考し、卒業後は理科の先生をしていたそうで、本作で描写されている鉱物採取の様子や大学の研究室の描写は、まさにその頃の実体験を元に描かれているのだろう。

とはいえ、実際の鉱物採取の現場はもっと泥臭く、また、危険も伴うものなので、本作ではその部分がかなりカジュアルに表現されている。

(リアルな鉱物採取の模様については、板垣清司 著『趣味の鉱石トレジャーハンター』に生々しく記載されているので、オススメだ。)

 

シゼンノ編輯部では、ルリのように自分が高校生の頃にこんな体験ができていれば、また違った人生があったかもしれないという感想が大勢を占めた。

こんな運と縁は、現実世界ではなかなか得難いものである。

 

だが、ここまで日常的に鉱物採取を指南してくれる人に恵まれなくとも、博物館では鉱物に関する様々な参加型イベントが開催されることも多い。

コロナ禍の今はイベントも開催しづらい、または、参加しづらい状況ではあるが、状況が許せば、そのようなイベントに参加してみるのも一つの手だろう。

 


2021年09月18日