書籍紹介

化石には、なろうとしてなれるものなのか

『化石になりたい』(土屋健 著)
シゼンノ編集部


「化石を集めたい」「化石を発掘したい」といった願望は、多くの人が一度は抱いたことがあるのではないかと思う。

だが、「化石になりたい」と思ったことのある人は、なかなかいないのではないだろうか。

 

今回紹介する『化石になりたい』(土屋健 著)は、そんなエクストリームな願望を前提とした、ユニークなコンセプトの本である。

 

化石になりたいのは誰だ

 

著者の土屋健氏は、古生物学分野に関する精力的な執筆活動で知られるサイエンスライターだ。もともと恐竜の研究をしたくて金沢大学の理学部地球科学科に入学。その後同大学大学院の自然科学研究科に進み古生物学を修めた筋金入りの古生物学畑の人である。

本書の奥付では、そんな著者の、まさに本書のコンセプトの元になったであろうエピソードが手短に紹介されている。

 

いわく、

高校時代、「どうせ土屋は、将来、化石になりたいんだろ」と友人に言われる。その後も、大学、社会人と、環境も人も変わるのに、なぜか似たようなことをまわりから指摘され続けている。

そう、「化石になりたい」なんて人がいるんだろうかと訝しく思っていたが、化石になりたいのは著者自身だったのだ。(少なくとも、周りからはそう見えているということだ。)

 

化石化のための最適解は?

 

本書では、「仮に自身やペットの死体を化石化し、遠い未来に発見してもらうにはどうしたら良いのか」という問いを立て、その最適解を探るために、これまで世界各地で発見された化石の生成パターンを紐解いていく。

 

より確実に、より美しく化石化し、より長年に渡って保存され、最終的には後世に確実に発見されるためには、どのパターンが一番良いのか。

 

化石として残るのは骨だけでいいのか、筋肉や内臓などの軟組織も残したいのか。

 

タールの池に沈むのが良いのか。

永久凍土で氷漬けになるのが良いのか。

海底の泥に埋もれるのが良いのか。

 

なかなか答えにはたどり着かない。

そもそも、唯一の最適解などあるのだろうか。

 

こんな思考実験を通じて、ひとくちに「化石」といっても様々な生成・保存のされ方があることを自然に学ぶことができるのが本書である。

まさにこの「様々な」化石があることがしっかりと理解できるようにという配慮なのだろう、非常に多数の写真が掲載されており、しかも全てフルカラーという贅沢さだ。

 

シゼンノ編集部のオススメ

 

なかなかお目にかかれないような貴重な化石標本の写真が豊富に掲載されている本書だが、その中でもぜひ実際に展示施設に足を運んで現物を見ておきたいのが、ブラジルのアラリッペ台地から産出した魚化石だ。

 

通常、魚化石というと、平べったい魚拓のようなものばかりだ(地層が生成される過程での圧力でペチャンコになってしまうのだ)が、このアラリッペ台地のサンタナ層という地層から産出される魚化石は、生きた魚そのままの立体的な姿を留めているのだ。

その姿はまるで、木彫りの熊が咥えている鮭の如く、化石とは思えない生々しい印象を見る者に与える。

 

本書では、そのサンタナ層産出の魚の化石の写真が4点掲載されているのだが、それらは全て城西大学水田記念博物館 大石化石ギャラリーに展示されているものだ。

同博物館には、この4点の他にも多数のサンタナ層産出の魚化石が展示されており、必見である。

大学の附属博物館ではあるが、一般にも公開されているので、ぜひ足を運んでほしい。

 

また、この原稿を書いている20224月時点では、名古屋大学博物館にもサンタナ層産出の魚化石が展示されているので、こちらもぜひ。

(博物館の展示内容は変更されることもあるので、今後も常に展示されているとは限りません。)

 

余話

 

前述の城西大学水田記念博物館 大石化石ギャラリーだが、この「大石化石ギャラリー」という施設名は、展示されている化石コレクションを寄贈した大石道夫氏にちなんでいる。

これだけの化石コレクションを寄贈したのだから古生物の研究者に違いない、と思うのが普通だろうが、実はDNA研究が専門であり、化石は趣味なのだという。

そのあたりの経緯はご著書『シーラカンスは語る』にて語られているので、ぜひ一読されたい。

 

 


2022年04月30日
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