書籍紹介

祝・ゴールデンスパイク設置! 今こそチバニアンを学ぼう

『チバニアン誕生』(岡田誠 著)
シゼンノ編集部


「チバニアン」という言葉自体は、多くの人が耳にしたことがあるだろう。

だが、チバニアンとは何なのかと問われれば、答えられる人は多くないのではないか。

そんな、チバニアンについてピンと来ていない世の多くの大人たちに是非読んでいただきたいのが、今回ご紹介する『チバニアン誕生』(岡田誠 著)だ。

 

本書は児童書の体裁をとっているため表現がとても平易かつ懇切丁寧で、それでいて難しい話を誤魔化さない真っ向勝負な内容なので、大人にこそ読んでほしい本だ。

 

 

チバニアンとは

 

地球が誕生して46億年。

地質学の世界では、その46億年分が地質年代ごとに116に区分されている。

古生物学好きでなくとも、「カンブリア紀」「ジュラ紀」などの言葉を聞いたことがある人も多いと思うが、地質学上はそのような区分からさらに細かく時代が区分されているのだ。

たとえばカンブリア紀ならば10期に分けられ、それぞれに名前が付けられる(が、この原稿を書いている20225月段階では、カンブリア紀の10期のうち、4期分にはまだ名前がついていない)。

チバニアンも、そのような地質年代に付けられた名前で、774000年~129000年前の時代を指す。

 

さて、このような地質年代の名前はいったい誰が、どうやって決めているのか。

それは、国際地質科学連合という国際機関による審査の上で認定されるのだ。

チバニアンも日本の研究チームがその審査に申請し、2020年に認定されたものである。(当時、大きなニュースになったので覚えている方も多いだろう。)

本書の著者はその研究チームでリーダーを努めた、まさにその人である。チバニアンを語るに、これほどの適任者もいないだろう。

 

 

地質年代の区分

 

では、そもそも地質年代は、何を以て区分としているのか。

それは、気候や生物相など、何らかの大きな地球環境の変化の変わり目を以て区分しており、チバニアンの場合は774000年前に起こった地磁気逆転を以て、時代区分としている。

 

「地磁気逆転とは何なのか」については本書をお読みいただくとして、その地磁気逆転の証拠となる地層が千葉県市原市の養老川沿いに露頭として現れており、それ(「千葉セクション」と呼ばれている)が時代区分の世界標準として認められたのだ。

 

この「地磁気逆転」というものが、なかなか感覚的には理解しにくく、「チバニアンとは?」ということを理解する際の大きな壁の一つとなる。

が、本書は児童書の体裁をとっているだけあって非常に平易に噛み砕いて説明されており、理解を大いに促してくれているから安心だ。

 

 

認定までの紆余曲折

 

地磁気逆転のような科学的な話ばかりでなく、「チバニアン」認定までの紆余曲折のような人間臭い話も、本書では惜しむことなく披露されている。

 

同じ時代区分のネーミングの認定を受けようとして申請していたのは日本の千葉セクションだけでなく、イタリアからも2箇所の申請があり、競り合いながらの審査だったことや、その審査でのドラマチックなどんでん返しなど、仮に地磁気逆転がうまく理解できなかったとしても楽しめる内容になっている。

 

ただし、本書はあくまで児童書なので、審査の途上で発生していたある研究者による妨害工作など、子供の夢を壊すような嫌な事案については触れられていない。

そちらについては、著者と同じチームで研究をおこなっていた菅沼悠介さんの著書『地磁気逆転と「チバニアン」』(講談社ブルーバックス)で少しだけ触れられているが、無事認定に至った今となってはほじくり返す必要もあるまい。

 

なお、『地磁気逆転と「チバニアン」』は、チバニアンを一般向けに解説した数少ない書籍で、『チバニアン誕生』を読んでより詳しいことを知りたくなった方向けの良書と言える。(タイトルのとおり「地磁気逆転」に主眼を置いた力作なので、是非通読をお勧めしたい。)

 

また、千葉県立中央博物館の常設展示においては、チバニアンについての詳しい展示・解説がなされているので、そちらも見学をすると理解が深まるだろう。

 

加えて、2021年に地質標本館において行われたチバニアンに関する特別展での展示がまとめられたブックレットが無料公開されているので、そちらも参照されたい。

 

地質標本館 特別展 「祝チバニアン誕生!拡大版もっと知りたい千葉時代」ブックレット

https://www.gsj.jp/Muse/exhibition/archives/src/chibanian2_booklet.pdf

 

 

そして、ゴールデンスパイク設置

 

時代区分を示す世界標準の地層と認められた地点には、ゴールデンスパイクという記念碑的な直径約20cmの鋲を打ち込むことが慣例とされている。

 

千葉セクションにも、認定早々にこのゴールデンスパイクが打ち込まれるはずだったのだが、コロナ禍により式典の決行が延期されつづけ、ようやく2022年5月21日に設置、お披露目に至った。

 

場所や見学方法についてはチバニアンビジターセンターのFacebookページを参照すると良いだろう。

是非その目で、千葉セクションの地層とゴールデンスパイクを確かめてみてはいかがだろうか。

 

なお、千葉セクション付近を流れる川の底には生痕化石を中心とした化石も多数観察できる。

それについては、同じくチバニアン申請をおこなった研究チームの一員である泉賢太郎さんの『ウンチ化石学入門』(インターナショナル新書)でも触れられているので、そちらもお勧めだ。

 


  


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