書籍紹介

アメリカ自然史博物館の恐竜たち

『アメリカ自然史博物館 恐竜大図鑑』(マーク・A・ノレル 著)
シゼンノ編集部

あこがれのあの博物館

自然史博物館ファンにとっての憧れの博物館といえば、真っ先に挙がるのはどこだろうか。

ロンドン自然史博物館?
フランス国立自然史博物館?
ウォルター・ロスチャイルド動物学博物館?
スミソニアン博物館?

いろいろな博物館が挙がるだろうが、アメリカ自然史博物館(以下「AMNH」)も間違いなくそういった憧れの自然史博物館の1つだろう。

AMNHは、ニューヨークにある大規模博物館で、4フロア45展示室で構成されている。
館名は「自然史博物館(Natural History)」だが、歴史や民族に関する展示も豊富で、プラネタリウムも併設されている。また、セオドア・ルーズベルト大統領の像でも有名だ。
映画『ナイトミュージアム』の舞台にもなっているので、ご存知の方も多いだろう。


紙上博物館としての図鑑

今回ご紹介する『アメリカ自然史博物館 恐竜大図鑑』(マーク・A・ノレル 著)は、そんなAMNHに展示されている恐竜化石の中から44点が紹介された大人向けの図鑑である。

たった44点。
数だけ見ると、非常に物足りない印象を受けるかもしれない。
子供向けの図鑑でも400種ぐらいは掲載されているものだが、その約10分の1。
それでいて、価格は子供向け図鑑の倍以上。

これはいったいどういうことなのか。

しかしながら、この問題提起は非常にナンセンスだ。(自分で書いておいて何だが・・・)
というのも本書は、恐竜という種の網羅的掲載を目的としたものではなく、あくまでAMNHに展示されている恐竜化石を、AMNHという文脈の中で楽しむものだからだ。
いうなれば、紙上博物館なのである。

博物館に展示されている固有の展示標本をフィーチャーしている図鑑なわけだから、掲載されている恐竜化石標本には、種としての属性だけでなく、それぞれが有するストーリーがある。本書では、それらのストーリーが、通常の図鑑の比ではないほどに分厚く解説されている。
たとえば、発見された経緯や、発見場所の様子、その後の研究の変遷など。

これらが記録写真や当時のスケッチなどと共に紹介されており、そのボリュームは1個体あたり4〜6ページも当てられている。(映画『ナイトミュージアム』で主人公を追い回して爆走したあのティラノサウルス標本も、6ページに渡って解説されている。)
つまり本書は、たくさんの恐竜を眺める本ではなく、AMNHに展示されている恐竜化石標本1つ1つを掘り下げて鑑賞する本なのだ。

これほどの情報は、質的にも量的にも現地の解説パネルよりも明らかにリッチである。
これこそ、本の醍醐味だろう。

また、本書に掲載されている骨格標本写真や復元図はいずれも非常に美しく、写真集のように眺めて楽しむ用途にも充分に堪えうるクオリティだ。
学問的に学ぶだけでなく、のんびりと眺めているだけでも楽しめる作りになっている。

AMNHに行ったことがある人にも、今後行ってみたい人にも、必携の一冊と言えるだろう。


2021年04月18日