書籍紹介

好きが高じて、化石採集の達人に

『日本のアンモナイト』(大八木和久 著)
シゼンノ編集部


日本の化石発見では、在野の化石発掘愛好家の寄与するところが非常に大きい。

有名なところでも、フタバスズキリュウを発見した鈴木直さん、カムイサウルスを発見した堀田良幸さんなど、枚挙にいとまがない。

 

今回紹介する『日本のアンモナイト』の著者・大八木和久さんも、そんな化石発掘愛好家の一人で、特に北海道のアンモナイトに魅せられ、滋賀県在住ながら50年間で68回も北海道で発掘巡検の旅をしたそうだ。

そんな著者が、これまで採集・発掘したアンモナイトの化石の紹介・解説にとどまらず、アンモナイトの生物的な構造や化石としての成り立ち方、さらには発掘ポイントの紹介や、発掘のノウハウまで惜しげもなく詰め込んだのが本書である。

 

多賀町立博物館

 

巻末の「終わりに」において、本書が多賀町立博物館の2021年度企画展「アンモナイトの世界にあわせて作成した本であることが明かされている。この企画展は著者が全面協力をしたようで、会場には著者の等身大パネルまで展示されていたようだ。

 

このような関係からか、本書では多賀町立博物館からの寄稿も掲載されている。

いわく、「開館準備を進めた頃から現在まで、大八木さんの化石に対する見識に頼ることも多く、採集からクリーニングそして展示に至るまで深く関わっていただきました。」という。

地域の博物館施設が地元のアマチュア収集家やボランティアで成り立っている例は全国でも多数あるが、大八木さんという人材を得られた多賀町立博物館は幸運だったと言えるだろう。

 

アンモナイトを半分に割ってみた

 

本書は、著者が長年に渡って採集したアンモナイトの中から選りすぐりの逸品を写真で掲載し、そこに解説を付記する構成になっているのだが、一番の見所は、著者自らがその貴重なコレクションのうちの19種を真っ二つに切断し、その内部構造をも写真と文章で解説しているところだ。

 

切断されたアンモナイト化石は、お土産物として目にすることはあるかもしれないが、種を特定した上で解説までつけてくれているとなると、博物館の展示でもそうそうお目にかかれない。

このことだけでも、著者のサービス精神の片鱗を垣間見る思いだ。

 

もちろん、著者のサービス精神はそれだけに留まらない。

長年かけて開拓してきた採集ポイントを事細かに、地図付きで解説している。

こんなに詳細に説明してしまっては、商売目的の良からぬ化石ハンターに荒らされてしまうのではないかと心配になってしまうが、アンモナイトはゴビ砂漠の恐竜化石と違って、お金目当てでは旨味が無いのかもしれない。

 

アンモナイトの進化を知るには

 

本書でも度々触れられている通り、アンモナイトには様々な形がある。

規則正しい渦巻き型のものと、渦巻き型をしていないもの(通常は「異常巻き」と呼ぶ)とがあり、そこからさらに非常に多数の種に分かれている。

この発達史(進化の枝分かれ)については、詳しく触れられている書籍が非常に少ないのだが、実は博物館では詳しい解説パネルが展示されているケースが多々ある。

そのような博物館に本書を持ち込んで、それらの解説パネルと見比べるというのも、非常に楽しい学びになるのではないだろうか。

 

ちなみに、管見の範囲では、アンモナイトの系統樹については豊橋市自然史博物館の解説パネルが非常に詳しく、オススメだ。

 



2022年06月29日
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