博物館
東京工業大学の地球史資料館はどんなところ?
シゼンノ編集部
今回取材したのは、日本の理工系大学としての最高峰・東京工業大学に開設されている地球史資料館だ。
大学の展示施設は、その分野に興味の薄い人からすると敷居の高い印象もあるが、実際に訪れてみるとその面白さに引きずり込まれるに違いない。
前編ではまず、館の成り立ちやコンセプトなどについて掘り下げていきたい。
(取材日:2022年6月27日)
成り立ち
東京工業大学地球史資料館(以下、「本館」)は運営主体が国立大学なので、日本の博物館の多くを占める公立の博物館とは設立・運営の趣旨が少々異なる。
本館の場合、所管する同大学理学院地球惑星科学系における研究成果を一般に広く還元するための施設、という位置付けなので、展示のテーマや内容もその研究テーマや研究成果に沿ったものとなる。
具体的には、世界25カ国35研究機関による共同研究である「全地球史解読計画」(1993年〜)の活動を通じて収集された岩石標本や、そこから導き出された研究成果を展示・解説する目的で1995年に開設された。
もちろん、展示されている標本は収集された岩石資料のうちのごくごく一部であり、地球の歴史の節目節目を示すような岩石が選び抜かれて展示されている。
ちなみに、保管庫(「岩石庫」と呼んでいるそうだ)にはなんと約20万点に及ぶ岩石資料が保管されているとのこと。
本館を主管されている同大学の上野雄一郎教授によれば、それらの岩石資料はほぼデータベースに登録されており、今後はそのデータを学外にも公開していきたいとのことである。
「全地球史解読計画」と展示のテーマ
では、その「研究成果」に基づく展示とはどのようなものなのか。
個別の展示標本について紹介する前に、「全地球史解読計画」がどのような研究なのか、また、それに基づいてどのようなテーマで展示が設計されているのかにつて触れなければなるまい。
地球は、この宇宙に誕生してから46億年が経つとされている。
このこと自体は、自然史博物館ではよく目にする事柄だろう。ただし、多くの自然史博物館における地球の誕生についての解説は簡易なもので、地球がどのような変遷を経て海と陸と大気で形成される星となり、そして生命が登場したのか、ということについてはかなり省略されていることが多い。
他方、本館では、まさに「どのような変遷を経て海と陸と大気で形成される星となり、そして生命が登場したのか」が最も重要なテーマとしてフォーカスされている。
とうのも、「地球史」ということを考えた場合、むしろそれこそが地球の歴史の期間として圧倒的に長いからだ。
ちなみに、生物の化石のほとんどはせいぜい5億年前まで。
「カンブリア爆発」と呼ばれ、生物の営みが化石に残るようになったのがそれぐらいの時期からなのだ。(もちろん、それ以前の化石が無いわけではないが。)
それは「地球の歴史からすればごく最近のこと」(上野教授・談)である。
地球の歴史を読み解く上ではそれ以前のこと、たとえば、30億年前、40億年前といった昔のことが分からなければ、分かったことにはならない。
つまり「全地球史解読計画」は、そういった古い時代の地球を岩石から読み解くことで地球史を解き明かそうという試みであり、その成果である「30億年、40億年前の地球はこうだったと考えられる。このような変遷を経て今がある」ということを展示のテーマとしているのが本館である。
実際、展示スペースとしても、化石時代よりも前に関する展示が大きな割合を占める。
このテーマに関してこれだけ詳しく展示・解説してくれている施設は、日本には類が無いのではないか。
なんだか難しそう・・・?
このような展示内容だと、非常にお堅くて難しい展示だと思われるかもしれない。が、実際は肩肘を張らない、最先端の研究成果を間近で感じられるまたと無い施設である。
もちろん、最先端の研究成果についての展示なので、何の予備知識も無ければ取っ付きにくいかもしれない。
そういう意味では、予習をしてから本館に足を運ぶというのも良いだろう。
たとえば、本館設立当時の責任者だった同大学名誉教授である丸山茂徳先生が監修された動画「全地球史アトラス」を視聴するだけでも予習効果が十分に得られるだろう。
全地球史アトラス フルストーリー
https://www.youtube.com/watch?v=rTCXFuQSSNU
また、この動画の監修者である丸山名誉教授自らが著された動画のガイドブックもあるので、併せて読むと学習効果が高まるだろう。
さらに深く知りたい場合には、同大学(当時)の廣瀬敬教授による『地球の中身』(講談社ブルーバックス)において研究内容が懇切丁寧に説明されており、これを読んだ上で展示を見ると、「ああ、あれに書いてあったのはこれか!」と感慨ひとしおとなること間違いなしである。
さて、次回はいよいよ個別の展示について取り上げていきたい。
乞う、ご期待!
(後編へ)