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地球の歴史の証拠の数々

第8回 東京工業大学 地球史資料館(後編)
シゼンノ編集部

前編では東京工業大学の地球史資料館(以下、「本館」)がどのような経緯で設立され、どのようなテーマに重きを置いた施設なのかについてお話しした。

後編ではいよいよ、どのような展示がなされているのか、地球の歴史の証拠となるような標本の数々を(全体のごく一部ではあるが)ご紹介していきたい。

(取材日:2022627日)

 

 

解説パネルだけでも知的興奮が止まらない

 

本館は、入口を入ってすぐ右手から順に、古い時代から新しい時代へと展開されるように岩石などが展示されている。

 

また、順路の最初の時点で、前編でも触れた「全地球解読計画」の研究成果についての充実した解説パネルも掲示されている。


展示されている岩石標本が、この解説パネルのどの部分に相当するものなのかなどを照らし合わせながら見学するもよし、同じく前編で紹介した予習を済ませてから見るもよし。

そうすることで、漫然と標本を眺めるだけでは得られない面白さを感じることができるだろう。

 

 

岩石標本のご紹介

 

さて、ここからは、展示されている岩石標本の一部を紹介していきたい。

 

まずは、現在のテクノロジーで計測できる範囲で、世界で最も古い地球物質を含んでいる岩石だ。


この赤茶けた岩石そのもの全体が「最古」なわけではなく、この岩石に含まれるジルコンという鉱物が「最古」なのである。その時期は44億年前。地球ができたのが46億年前だから、出来立てホヤホヤの頃の物質だ。

 

なお、そのジルコンだが、この岩石では砂状の粒で含まれている。

下掲の写真では分かりにくいが、肉眼ではこの岩石断面部分全体に、光を反射してキラキラと光る粒子が見て取れる。そのうちのひとつがジルコンの結晶である。


なお、大きな結晶は花崗岩の岩片や石英などで、ジルコンとは全く関係ない。

 

ちなみに、この赤茶けた岩石自体は、34億年前に形成された堆積岩(礫岩)である。

堆積岩は、地球の表面全てが海に覆われていた場合には形成されにくい岩石なので、この時代にはすでに陸と海とが存在していたということの証でもある。

 

次は、現在確認されている中で、世界で最も古い「岩石」である。


1つ目の赤茶けた岩石は、そこに含まれる鉱物(ジルコン)が古いという話なのだが、こちらは岩石として形成された年代が古い、ということである。その時期は約40億年前。

 

この岩石は片麻岩といって、地下深くで高い圧力と高い熱で以って変成された岩石だが、その変成が40億年前におこなわれたということではなく、変成される前の岩石(花崗岩)が出来たのが40億年前とのことだ。

 

次は、「最も古い」という冠はついていないが、35億年前に形成された礫岩である。


磨かれているとはいえ、通常見かける礫岩とは異なり切断面が非常に美しい。

上野教授によると、この礫岩はおそらく珪酸の含まれる量が多く、珪化しているためこのような見た目になっているだろうということだった。

 

ちなみに、この礫岩に限らず、岩石に含まれている礫や砂粒自体が形成された年代というのは計測できないケースも多いそうだ。

 

例えば、前出のジルコンであればウランという放射性物質を含むため、放射年代測定で年代を特定できるわけだが、多くの礫や砂粒はそのように測定可能なわけではない。

このため、この礫岩が形成された時期が35億年前であることは特定できるものの、この礫岩の中に含まれる礫や砂粒がいつ頃形成されたのか(もちろん、35億年前に堆積したものなので、それよりもっと古い時代に形成されていたに違いない)は測定する技術が無いそうだ。

まだまだ分からないことがたくさんある、というのは、夢が広がる話である。

 

 

最古の生命の痕跡?!

 

最後に紹介するのは、「最古の生命の痕跡を含む堆積岩」だ。


「生命の痕跡」というと、多くの人は化石を連想するだろう。

が、この岩石に含まれる「生命の痕跡」は、化石のように生物の姿をとどめたものではない。

では、この岩石の何が「生命の痕跡」なのか。

 

それは、この岩石に含まれる炭素の安定同位体の比率が異常な値である、ということにある。

これだけではほとんどの人にとって「?」だと思うので、少し詳しく説明したい。

 

少々ややこしい化学の話になるが、同じ炭素という原子であっても、1個の原子に付随する陽子や中性子の合計数が異なることがある。

炭素でいえば、12個、13個、14個以上などのいろいろなパターンがあるが、このうち、12個と13個の場合以外(例えば14個の場合)、時間が経過するにつれ陽子の数が減っていく。

他方、12個と13個の場合には時間が経過しても陽子や中性子の数が変わることがなく、12個なら12個のままなのだ。このような元素のことを「安定同位体」という。

 

炭素の場合、安定同位体である12個と13個のタイプの比率は地球上で一定なのだが、この比率が上掲の岩石においては異常なのだ。

 

生物は生命活動をする上で炭素を体内に取り込むのだが、その際、上記の13個のタイプではなく12個のタイプを優先する。

そうなると、地球上では12個タイプと13個タイプの比率が一定であるのに、生物の体内では12個タイプの割合が明らかに大きくなる、という現象が発生する。

つまり、上掲の岩石では地球上での通常の割合と異なり12個タイプの炭素が圧倒的に多いことが確認され、それを以って「生命の痕跡」だとしている。

 

その「生命の痕跡」が確認できる岩石の中で最も古いのが上掲の岩石で、年代は38億年前とのことだ。

よく「地球上に生命が誕生したのは38億年」という表現が用いられる(自然史博物館などでもよく見かけるだろう)が、その根拠は、まさにこのようなことに依拠しているのだ。

さらに言えば、現在確認できているのが38億年前というだけで、もしかしたら今後、もっと古い時代の岩石からも「生命の痕跡」が発見されるかもしれない。

そう考えると、ワクワクが止まらないのである。

 

 

その後の時代の標本

 

ここでご紹介したのは、40億年だの35億年だのといった時代の岩石ばかりだが、本館ではもちろん、その後の時代に地球環境を一変させたストロマトライトの化石や、主だった造岩鉱物コレクションなども豊富に展示されている。

 

本館は、現時点では毎週木曜の午後のみの開館(開館スケジュールは公式HPを参照のこと)となっているが、休みを都合してでも足を運びたい施設である。


(了)


2022年07月27日
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東京科学大学 地球史資料館

地球の惑星としての成り立ちについて、その資料となる岩石や鉱物などの展示を交えながら解説。
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