書籍紹介
国立科学博物館「化石ハンター展」を10倍楽しむために
シゼンノ編集部
この記事を書いている2022年夏、国立科学博物館の特別展「化石ハンター展」が大いに盛り上がっている。
『もがいて、もがいて、古生物学者!!』(略して『もがこせ』)という著書をきっかけに、古生物学ファンを中心とした一般層から一躍人気を集めている研究者・木村由莉さんが総合監修をつとめていることもあって、特に古生物ファンの間では話題の特別展となっているようだ。
この「化石ハンター展」には「ロイ・チャップマン・アンドリュースの中央アジア探検100周年記念」という冠がつけられている。
「ロイ・チャップマン・アンドリュース」とは、1900年代前半に活躍した博物学者にして探検家なのだが、同展ではこのロイ・チャップマン・アンドリュースが中央アジア(特にゴビ砂漠)でおこなった化石発掘の成果や、それに続く「化石ハンター」たちによる同じゴビ砂漠での成果が紹介されている。
今回紹介する『ドラゴン・ハンター ロイ・チャップマン・アンドリューズの恐竜発掘記』は、このロイ・チャップマン・アンドリュースについての伝記だ。それも、日本語で読めるものの中では唯一、子供向けでない本である。
(本書では「アンドリュース」ではなく「アンドリューズ」と表記されているため、以降は「化石ハンター展」記載事項を除き「アンドリューズ」の表記で統一する。)
ロイ・チャップマン・アンドリューズ
ロイ・チャップマン・アンドリューズは博物学者であり、世界を飛び回った探検家であり、熟年期に入ってはアメリカ自然史博物館の館長をつとめた人物である。
その行動はとかく派手でエピソードに事欠かない、まさに立志伝中の人だ。
そんな彼を語る上では常に、映画『インディー・ジョーンズ』シリーズの主人公インディアナ・ジョーンズ・ジュニアのモデルではないかといった推測が(シリーズの生みの親であるジョージ・ルーカスが繰り返し否定しているにもかかわらず)付いてまわる。(「化石ハンター展」総合監修の木村由莉さんが同展を紹介した著書『化石の復元、承ります。』の中でも「かの有名な冒険映画『インディ・ジョーンズ』のモデルともいわれている人物である。」としているほど、巷間に広まっている説だ。)
それほどまでに物語映えするキャラクターなのである。
このため、アンドリューズといえばどうしても派手な冒険譚が話題になりがちだが、本書は派手な活躍だけではなく、生い立ちから、やや失意の中にあった晩年までをつぶさに追っている。これこそ伝記の意義であろう。
詳しい話は本書を読んでのお楽しみとしていただきたいのだが、ここで特筆すべきは、もともとアンドリューズは古生物学を専門とした研究者ではなく、キャリアのスタートは現生動物、しかも鯨類の研究だったということである。
その後、陸地の現生生物を(標本として)収集するために世界各地(特にアジア)を歴訪し、いつの間にか中央アジアでの大規模な化石発掘隊を組織するに至るのである。しかも、その発掘隊のターゲットは古生物だけでなく、人類の起源となる類人猿の化石や、もっと時代が下った旧石器時代の石器の類まで含まれていた。
現在のように、研究が細分化された時代からは考えもよらないような、手広い展開である。まさに「博物学」の徒だったというわけだ。(もちろんこれらのジャンルを1人でカバーしていたのではなく、各ジャンルのスペシャリストを隊に同行させていたわけだが。)
本書と「化石ハンター展」の併用のススメ
本書は古生物学の本ではなく、あくまでアンドリューズの伝記であるため、アンドリューズの行動を追うことには非常に優れているものの、発掘された古生物などの説明は乏しいと言わざるを得ない。
また、発掘調査のルートは文章で説明されているだけなので、読者によほどの土地勘がない限り、どこを移動してどこで発掘をしたのかよく分からないという弱みがある。
これを補うとすれば、やはり「化石ハンター展」はこの上ない情報源である。
同展では古生物学や地質学の観点からの展示構成がなされているので、アンドリューズやその後の古生物学者たちによって発見・研究された古生物や、その古生物たちが生きた時代・環境に関して詳しく学ぶことができる。
本書を読んだ後に「化石ハンター展」を見学すれば、化石のビジュアルを含めて、本書に登場する古生物等のイメージがしやすくなる一方、「化石ハンター展」を見学してから本書を読めば、展示でビジュアル的に全体像を掴んでから読み進められるため、文章だけではイメージしにくい点についての理解が大いに捗るだろう。
さらに、「化石ハンター展」の図録に掲載されている地図「アンドリュース探検ルート」と見比べながら読み進めれば、文章だけでは把握しにくいアンドリューズ探検隊の行程を、地図をなぞりながら理解することができる。
この地図に限らず、本書を読む上では「化石ハンター展」の図録を副読本として活用することを強くおすすめしたい。
このように、「化石ハンター展」と本書とを併用することで、両方の理解が共に大きく促されること請け合いである。
なお、残念ながら本書はすでに絶版となっており、また、この記事を書いている2022年8月現在、「化石ハンター展」の影響か古書市場でも品薄な状態になっているようだが、入手が困難な場合にはぜひ図書館などの活用もおすすめしたい。
図書館の活用について
図書館に目当ての本があるかどうかについては、最寄りの図書館に直接足を運ぶのも良いが、インターネット上で在庫検索をするという方法もある。
全国7,400以上の図書館からリアルタイムの貸し出し状況を検索できるサービス「カーリル」
また、自前で蔵書検索機能を提供している図書館も多いので、ぜひ活用されたい。
2022年08月22日
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