書籍紹介

ナウマンは、ナウマンゾウ以外の業績がすごい!

『地質学者ナウマン伝 フォッサマグナに挑んだお雇い外国人』(矢島道子 著)
シゼンノ編集部
日本の地質学の嚆矢

地質学ファンで知らない人はいないであろう、糸魚川フォッサマグナミュージアム。
その一角に、明治時代のある研究者のコーナーがあり、ゆかりの品などが展示されている。
その研究者とは、ハインリッヒ・エドムント・ナウマン。

ナウマンの名は一般に、旧石器時代に日本に存在したナウマンゾウの名前で知られているが、そのナウマンのコーナーがなぜ糸魚川フォッサマグナミュージアムに存在しているのか。
実は、ナウマンこそ、世界的にも非常に珍しい地形構造である日本のフォッサマグナを発見した人なのである。まさにフォッサマグナミュージアムにこそふさわしい研究者なのだ。

今回ご紹介する『地質学者ナウマン伝 フォッサマグナに挑んだお雇い外国人』(矢島美智子 著)は、そんなナウマンの生涯を、その事績とともに追った伝記である。


波乱万丈の人生

ザクセン共和国(現ドイツ)に生まれたナウマンは、明治8年、地質・鉱物・鉱山の分野の専門家として招かれた、いわゆるお雇い外国人として日本の地を踏む。弱冠二十歳であった。
それから10年間の日本滞在中に、ナウマンは日本全国を歩き回り、詳細な地質図を作りあげ、フォッサマグナを発見し、日本各地の火山に登り、火山や鉱山の研究をした。非常に旺盛な活動と成果である。

特に富士山については、ナウマンはフォッサマグナに関係していると考えていたこともあって、日本を去った後に詳細な測量情報を発表している。
10年という短期間に20代の若者(ナウマンが日本にいたのは主に20代の10年間である)が大きな成果を成すというのは、驚きである。

また、この10年の間にプライベートでは、妻・ゾフィーの不倫相手男性と決闘したり、結局離婚したりといった波乱にも満ちていた。

このようにトピック満載の人生を送ったナウマンだが、日本語で読める伝記は本書のみである。
業績も大きく、「ナウマンゾウ」によって名前は有名なのに、なぜか影が薄いのだ。(本書でも指摘しているとおり、森鴎外との論争で不評を被ったこともその理由の1つかもしれない。)

本書はまさにそんなナウマンにスポットライトを当てた、画期的な書籍である。
専門的な内容も含まれるが、あくまで一般書なので、広く誰もが手に取れるような内容になっているのも嬉しい。

研究者として必ずしも綺羅びやかな後半生ではなかったナウマンだが、それも含めて、一人の研究者の人生である。
ぜひ本書を読んで、思いを馳せてほしい。


余話

糸魚川フォッサマグナミュージアムのミュージアムショップには、ナウマンの肖像をプリントしたオリジナルTシャツが売られている。(2020年11月時点)
地質学好きの皆様におかれては、ぜひともこの夏、ナウマンTシャツでキメてほしいところである。


余話2

ナウマンが研究対象としたナウマンゾウの化石は、1867年、横須賀の造船所を建設する際に発見された。
その化石の実物は現在、半分は国立科学博物館、もう半分は学習院中等科・高等科がそれぞれ所蔵しているが、横須賀市立人文・自然史博物館ではそれらのレプリカを作成し、1つの標本として接合して展示している。


2021年04月18日
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