書籍紹介

国立科学博物館「ワイルド・ファイヤー」展のネタ元

『山火事と地球の進化』(アンドレー・G・スコット 著)
シゼンノ編集部


20221115日から、国立科学博物館で企画展「ワイルド・ファイヤー:火の自然史」が開催されている。(開催は2023226日まで)

これは、「ワイルド・ファイヤー」(野火、山火事)が気候変動や生物多様性に対する脅威として着目されるようになったことを受け、野火、山火事がいかに地球環境に対して影響を与えてきたのかの歴史(地球史)を紐解く展示だ。

 

この企画展の元ネタとなったのが、今回紹介する『山火事と地球の進化』である。

そのことは、企画展「ワイルド・ファイヤー:火の自然史」の監修者である国立科学博物館の矢部淳氏が本書の「解説」の中で語っている。

 

まさに、国立科学博物館で企画展を見る前の予習として、または、見終わってからの復習として読むべき一冊なのが、本書である。

 

 

山火事といえば?

 

山火事というと、皆さんはどんなイメージをお持ちだろうか。

 

この記事を読んでいる人の中には、実際に身近に山火事を経験したことのある人は少ないかもしれない。が、カリフォルニアやオーストラリアの山火事のニュース映像を見たことがある人ならば、多いのではないか。

 

最近では、地球温暖化の影響ではないかと指摘される熱波の影響で、山火事が発生しやすい状況が世界的に多くなっているとも言われている。

これらの話は基本的に、ネガティブな文脈で語られることが多い。つまり、山火事という事象は、本来起こってはならないことという前提が無意識に我々の脳裏にはあるからだ。

 

もちろん、山火事によって発生する経済的な損害に加え、被害に遭う動植物のことを考えれば、深刻なクライシスであるという受け止め方は当然である。

 

他方、場合によっては、野焼きなどによってそれを人為的におこなうこともある。

人為的な野焼きというと、焼畑農業を連想する人も多いかもしれないが、そればかりではない。

今での日本の各地で、草原の維持管理のために、春になると野焼きをおこなっている地域が多々ある。

この野焼きをすることによって初めて芽吹く植物があるなど、火に依存する生態系も存在するのだ。

 

実は山火事は、陸地に植物が現れた数億年前から、生態系とは切っても切れない縁を延々と紡いできているのである。

本書では、地質と化石(炭化した植物の化石など)から、そのことを詳らかにしている。

 

 

山火事を化石から研究する

 

著者は若かりし頃から40年あまりにわたって、火事によって炭化した植物の化石(=木炭)を発掘、研究してきた。

その中で、山火事は植物が地上に森を作って以来発生し続けてきた自然の営為であること、ならびに、地上の酸素濃度や気温が高まるなどすれば、山火事も増える傾向にあることを解き明かしている。

 

また、過去数億年の山火事傾向を化石から探るだけでなく、そこから見出された傾向を今後の地球環境を考えることにも応用している。

つまり現代において発生する山火事についてどう考えるか、環境負荷を抑えるためにはどうしたらいいのか、といったことにまで示唆に富んだ本なのだ。

 

たとえば本書では、本来ならば山火事が起こりにくい環境(降雨量が多く湿潤)である熱帯雨林のインドネシアで、最近山火事が深刻であることに触れられている。

このような現象はなぜ起きるのか、著者は、地球の歴史上での火事の傾向を探ることで、その要因を絞り込んでいる。

 

このように、過去の地球環境における山火事の傾向を知ることで、今後の地球環境を考える上での重要な手がかりを掴んでいるのである。

 

本書には、そんなパラダイムシフトがたくさん詰め込まれている。

 

 

補記

 

冒頭で触れた国立科学博物館の「ワイルド・ファイヤー」展だが、当然ながら本書の内容がそのまま展示されているわけではなく、本書では触れられていない日本の事例なども織り交ぜながら、非常に端的に分かりやすく解説されているのとともに、写真だけではイメージしにくい木炭や石炭の実物が展示されているなど、非常に良い展示となっている。

 

ぜひ、本書と併せて「ワイルド・ファイヤー」展にも足を運んでみてほしい。

 

 


2022年11月23日
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