書籍紹介

糞虫専門の博物館?!

『フン虫に夢中』(いどきえり 著、中村圭一 解説)
シゼンノ編集部


大人の皆さんのなかには、子供の頃には昆虫採集に夢中になっていたのに、中学生、高校生と年齢を重ねるにつれて昆虫に対する興味が薄れていったという方も多いのではないか。

 

今回紹介する『フン虫に夢中』は、そんな大人たちにもぜひ読んでほしい児童書だ。

 

 

糞(フン)虫とは?

 

『ファーブル昆虫記』を読んだことがある方なら、フンコロガシという昆虫をよくご存知だろう。

読んだことがない方でも、フンコロガシという名前は聞いたことがあるのではないか。

 

フンコロガシは獣の糞を餌としており、その餌である糞をその場で食べたり、場合によっては適度な大きさに丸めて転がして持ち去ったりする。その際の転がす姿がユーモラスなために、メディアで話題に上がることがしばしばある。

このフンコロガシのように、獣糞を餌とする甲虫を総称して「糞(フン)虫」と呼ぶ。(ただし、糞虫が皆、糞を転がすわけではない。)

 

この糞虫、実はコガネムシの一種で「食糞性コガネムシ」などと呼ばれることもあり、日本ではなんと約160種が生息している。

コガネムシの一種だけあって体表に金属のような美しい光沢を持つものも多く、中には、カブトムシのように角がある種もいたりする。

 

つまり、端的に言って、カッコいいのだ。

 

正直、動物のウンコを食べていると聞くとちょっと引いてしまうのだが、実は糞虫が動物の糞を食べてくれるおかげで、森や牧場が清潔に保たれているという面もある。

見た目がカッコいいだけでなく、環境の美化にも大いに貢献しているのだから、良いこと尽くめだ。

 

 

糞虫専門の博物館?!

 

そんな糞虫に魅せられ、個人で専門の博物館を作ってしまった人がいる。

それが、ならまち糞虫館の館長である中村圭一さんだ。

 

本書『フン虫に夢中』は、そんな中村さんの半生を振り返りつつ、糞虫の素晴らしさを平易、かつ、ユーモラスに伝える本である。

物語の前半は、小中高と昆虫(特に糞虫)三昧の日々の様子が描かれている。

高校一年生のときには糞虫に関する優れた研究をおこない、仲間と共に県知事賞を受賞している。

 

こうなると、中村さんはずっと糞虫に熱中しつづけた人生だったのかと思うだろうが、実はそんなことはなかったそうだ。

多くの大人たちと同じように、大学生になり社会人になるうちに生活の中から糞虫だけでなく昆虫すらも消えてしまっていたそうで、後に再び昆虫(特に糞虫)に対する熱意が盛り上がり、50代の半ばにしてならまち糞虫館をオープンしたのである。

 

博物館ファンなら、自分で博物館をオープンするというのは憧れのひとつの究極系ではないだろうか。

それを、紆余曲折の末に成し遂げた中村さんに羨望が募るのである。

 

そんな中村さんや糞虫に興味が湧いたら、ぜひとも、ならまち糞虫館を訪れたし。

場所が分かりにくいそうだが、公式ホームページにはかなり懇切丁寧に道順が説明されているので、初めて訪れる際には事前に見ておくと良いだろう。




2021年06月06日
関連博物館
ならまち糞虫館

センチコガネやダイコクコガネやエンマコガネなど、日本だけでなく世界のフン虫の標本を展示。

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