書籍紹介

美しい鉱物の物語

『鉱物語り』(藤浦淳 著)
シゼンノ編集部

鉱物収集という沼

 

鉱物収集を趣味とする人は、しばしばいる。

その中には、希少な鉱物を探して鉱山跡地などを巡る本格的な鉱物ハンターも確かに存在する。

 

そういった鉱物収集家たちは、次第に自宅の居住スペースを鉱物に侵食されていき、保管場所に苦慮しながらも、その圧迫感を楽しんだりする。

これは、鉱物収集家に限らず、コレクターの類はジャンルを問わずそういう傾向にあるのではないかと思う。

 

今回紹介する『鉱物語り』の著者が保管場所に苦慮しているか否かは定かではないが、少なくとも、筋金の入った鉱物収集家であることは間違いない。(自宅に「1500点に及ぶ鉱物・化石標本がうなって」いる他、貝塚市立自然遊学館に標本を多数寄贈しているそうである。)

本書は、その著者が、小学生の頃から収集してきた膨大な鉱物コレクションを、その鉱物にまつわるエピソードなどを添えて開陳するという全50話で構成されている。

 

 

珠玉のエッセイ

 

コレクターによるコレクション披露は、ともすれば自慢話になるか、自慢になるのを恐れるあまり自虐を演出するかのいずれかになりがちだが、本書にはそういった匂いは感じられない。

 

著者はもともと産経新聞の記者で、鉱物趣味が嵩じて鉱物研究の聖地・益富地学会館の門を叩き、同館の研究者の支援を受けながら新聞紙上で鉱物に関する連載をおこなうなどしてきた経歴を持つ。

その中で培われたであろう、文章の妙と鉱物知識は確かなもので、本書は読む者に「しかりしかり」と膝を叩かせるだけでなく、ベテランの鉱物マニアにとっても「そんなこともあるのか」と新たな知見をもたらすことがしばしばではないだろうか。

 

話題の選び方も、単なる個人的な経験談などは一定に抑えられており、その鉱物に関連する歴史や文化などの話題もふんだんに盛り込まれている。これこそ、新聞記者の面目躍如といった構成である。

 

また、1話1話にフルカラーで添えられている鉱物写真(当然、著者のコレクション、もしくは、貝塚市立自然遊学館に寄贈された元コレクションの写真である)は、著者手ずから撮影したものである。

図鑑とは一味違った切り口の写真も多く、改めて鉱物の美しさに気付かされる。

 

コロナ禍にあって博物館を訪れることもままならない今だからこそ、このような本で「おうちで博物館」の王道を味わうというのも良いのではないだろうか。



2021年06月12日
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