書籍紹介
恐竜展示の裏側@国立科学博物館
シゼンノ編集部
大型恐竜の化石骨格標本は、自然史博物館の花形である。(異論は認める。)
今回紹介する『恐竜の魅せ方』は、そんな恐竜展示の裏側にスポットを当てた本である。
展示は、研究者だけでは成り立たない
博物館の展示について情報を発信する際には、その展示を担当した学芸員(=研究者)が表の顔となる。
学芸員は展示の責任者であり、学術的な正確性を担保したり、解説文を書いたり、場合によっては手作りでパネルや展示品を作ったりもする。
だが、展示の規模が大きくなれば、学芸員個人の手技だけですべてを賄うのは至難の業である。
また、博物館は常設展だけでなく、期間限定の展示である特別展や企画展を催すことも多い。
このような展示については、展示する標本の手配、搬入、設営、撤収、搬出など展示そのものに関するタスクの他に、いかにその展示を多くの人に知ってもらい足を運んでもらうか、という宣伝・広報活動も必要になる。
特に大型の恐竜を展示するとなると、展示も大掛かりにならざるを得ない。
そんな恐竜たちの博物館展示には、当然のことながら様々な裏方がいる。その裏方たちのプロフェッショナルな働きがあってこそ、人々は楽しく見学することができるのだ。
国立科学博物館の恐竜博の舞台裏
本書のユニークなところは、恐竜展示そのものよりも、そこに携わる人々にスポットライトを当てていることだ。
舞台は2019年の夏におこなわれた国立科学博物館の特別展「恐竜博2019」。その準備が誰によってどのように進められたのかを話題の中心に据えながら、スタッフそれぞれの語り下ろしによるオムニバス形式がとられている。
登場する人々は、
- 発掘した化石のクリーニングから、博物館に展示する化石標本レプリカの制作まで幅広く手掛ける会社の代表
- 恐竜など古生物の復元図を描くイラストレーター
- 恐竜フィギュアの造形師
- 企画から広報まで担当する、協賛社である新聞社やテレビ局の社員
- 展示の設計から、展示会場で実際に恐竜の巨大な骨格標本を組み上げ、設置までおこなう職人
など、非常に多彩である。
その一人ひとりが、どのようにして博物館の企画・展示に関わるようになっていったのか、「恐竜博2019」にどのような関わり方をしているのか、その中での面白さや苦労はどんなところにあるのか、などをそれぞれの視点で語っている。
多くの恐竜ファンや博物館ファンにとっても、こういった方々がどんな人たちで、どんなことを考えながら展示に携わっているのかを知る機会というのはなかなか無いだろう。
展示の裏にこういった物語があるということを知るだけで、博物館展示がまた一味違って見えてくるのではないだろうか。
常設展も面白い
最後の章では、著者である真鍋真さん自らの語りにより、国立科学博物館の常設展の魅力に迫っている。
国立科学博物館は常設展も面白い。
いや、常設展にこそ良い標本はあるのだという。
ティラノサウルス、アパトサウルス、トリケラトプス、鳥の丸焼き風展示のデイノニクスなどなど地球館地下一階の展示の楽しみ方を中心に、それらに対する著者の愛情たっぷりの解説を読んでいると、今すぐにも国立科学博物館に行きたくなるだろう。
本書は2019年発刊であるため、コロナ禍にある現在においては本書で紹介されている展示の一部には利用ができないものもあり、緊急事態宣言による休館や入場制限なども生じているが、それでも本書を片手に、万難を排して見学に行きたいところである。
余話
上記「発掘した化石のクリーニングから、博物館に展示する化石標本レプリカの制作まで幅広く手掛ける会社の代表」の高橋功さんは、「太古の館」(現・神流町 恐竜センター)の設立にも携わっており、本書ではその苦労話なども披露されている。
そちらの話も非常に興味深いものなので、そういった意味でも本書は自然史博物館好きにはたまらない作品といえるだろう。
2021年06月19日
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