博物館レポート

目黒寄生虫館が目指すSDGsとは

第4回 目黒寄生虫館(後編)
シゼンノ編集部

博物館レポート、第4回は前回に引き続き目黒寄生虫館。

今回は、目黒寄生虫館の現在と、目指す姿について話をしていこう。

 

 

1階は多様性のフロア

 

目黒寄生虫館の展示室は2フロアに分かれている。

 

まずは1階。

寄生虫と呼ばれる生き物たちの全体像と多様性が理解できるよう、寄生虫の系統樹のパネルから展示が始まる。

 

昨今、生物多様性がいかに重要かということが様々なメディアで発信されているが、ここに展示された寄生虫の世界こそ、生物多様性そのものである。

というのも、脊椎動物であろうと無脊椎動物であろうと、地球上の多くの動物には寄生虫が宿っており、また、そこに宿る寄生虫も、なんでもいいから寄生するということではなく、ある特定の種にしか寄生しないというニッチを攻める種が多いのだ。

 

たとえば、取材時に生体展示されていたロイコクロリジウムという寄生虫は、ある特定の陸貝(カタツムリの仲間)に卵を食べられることで孵化して幼生となり、そのロイコクロリジウムの幼生を宿した陸貝を鳥が食べることにより、今度は鳥の体内で成虫となって産卵し、鳥の糞と一緒にその卵が排出され、また陸貝に食べられる、というサイクルをたどる。

陸貝の体内でしか卵は孵化できないし、鳥の体内でしか成虫になれないのだ。

 

ロイコクロリジウムはそれでもまだ2種類の動物の間を行ったり来たりするだけだが、もっと複雑なものになると、3種類以上の動物の体内を経て卵から成虫になっていく。

寄生虫たちは、まさに生物多様性の隙間を縫うように生きているのである。

 

このような多様な寄生虫たちの標本がズラっと並んでいるのも1階展示室の特徴だ。


今年(2021年)4月に新館長に就任された倉持利明館長によると、「寄生虫というと気持ち悪いもの、と思われがちだが、そんな寄生虫の標本であっても思わずハッと目をとめるような、美しい展示にしていきたい」とのこと。

実際、棚の背景は黒、標本瓶の中は海を思わせる青、それがLEDライトで照らされコントラストが美しく浮かび上がっている。

 

 

2階は人と寄生虫のフロア

 

2階は、人体寄生虫や人獣共通寄生虫など、人に寄生する種の展示がされている。

 

あえて言うならば、1階は生物としての寄生虫、つまり生物多様性の一角を担う存在としての寄生虫をテーマにしている一方で、2階は、寄生虫を原因とする病気についてなど、防疫や公衆衛生をテーマとした展示が中心となっている。

まさに、創設者である亀谷博士の研究者と医師との2つの顔をそのまま表したようなフロア設計である。

 

2階は人間に寄生するものがテーマなだけあって、特に寄生虫に強い関心をもっていない人でも聞いたことがあるような寄生虫も多く取り上げられている。

 

たとえば、2018年に被害が急増して話題になったアニサキスや、猫と人との共通の寄生虫であるトキソプラズマ、北海道でキタキツネに接触してはいけないとされる最大の理由であるエキノコックスなど、ニュースなどでたびたび目にする名前も多い。

 

ただ、日本に住む多くの人にとって寄生虫病は、もはや自身の健康を脅かす存在として差し迫って感じられるものではないだろう。

食品衛生の徹底、清潔な上水道と適切にメンテナンスされた下水道の完備、さらには、特定の寄生虫の宿主を徹底的に撲滅するなどの対策が講じられ、現代日本において寄生虫病は非常に珍しいものになっている。

 

しかし、倉持館長は言う。

寄生虫の存在を普段ほとんど意識せずに生きていける日本という環境がいかに大切で、貴重で、その環境を我々はいかに享受しているのかにも思いを馳せるべきである、と。

 

ひとたび海外に目を向ければ、日本ではとっくに克服されたような寄生虫病に苦しむ国や地域がたくさん存在し、厳しい現実に直面して生きている人々が数多くいるのである。

その人々の存在、その人々の苦しみにまで思いを馳せることが、真に目黒寄生虫館で実感して欲しいことなのだ、と。

そして、目黒寄生虫館で見て学んだことが直接的にでも間接的にでもきっかけとなって、そのような苦しむ人々の助けとなるような活動を目指す人が現れれば、この上ない喜びだ、と。

 

それこそが、目黒寄生虫館が目指すSDGsなのだ。

 

実際、2階の1コーナーに、「顧みられない熱帯病を知っていますか?」と題した、リンパ系フィラリア症(寄生虫病の一種)の制圧に向けたWHOの活動を紹介するパネルがある。


このパネルは、以下の言葉で締めくくられている。


以上の対策は確実に成果をあげており、2021年にはフィラリア症が完全に制圧されることが期待されます。これは、顧みられない熱帯病の制圧、ひいては貧困の削減に向けた大きな前進となるでしょう。

そう、寄生虫の話は、SDGsの「健康と福祉」や「安全な水とトイレ」といった話だけでなく、貧困の解消にも大きく関わる課題なのだ。

 

このパネルには、この取材時点では「2021年にはフィラリア症が完全に制圧されることが期待されます。」と記されていたが、今後その結果も展示において報告される予定とのことだ。

すでに調査をおこない、展示へ向けての準備がおこなわれているとのことなので、期待して待ちたい。

 

 

ミュージアムショップ

 

目黒寄生虫館といえば、オリジナルグッズに力を入れていることでも有名である。

そのラインナップは随時入れ替えがあり、熱心なコレクターもいるほどだ。

 

これらの収益は館の運営に充てられるのだが、それは、自治体など出資母体のない独立採算制の民間の博物館である目黒寄生虫館にとっては重要な資金源なのである。

 

また、寄生虫に関する書籍のラインナップも充実しており、中には世の大手書籍オンラインショップでは取り扱われていないようなタイトルも販売されていることがある。

 

目黒寄生虫館を訪れた際にはぜひ覗いてみてほしい。

併せて、オンラインショップもぜひ!

 

(写真は、目黒寄生虫館オリジナルTシャツを着る倉持館長)

(了)

2021年09月11日
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