書籍紹介
著者に聞く! 奄美大島と奄美博物館の魅力 (前編)
シゼンノ編集部
今回紹介する『博物館が語る 奄美の自然・歴史・ 文化』 は、「奄美博物館公式ガイドブック」と銘打った、奄美博物館による奄美の自然・歴史・文化をテンコ盛りにした解説本だ。
本書は、奄美博物館の学芸員4名によって著されており、そのうち自然史分野については平城達哉さんが担当されている。
今回はその平城さんに、奄美大島と奄美博物館の魅力について、電話にてお話を伺った。
シゼンノ編集部:
早速ですが、本書のコンセプトを教えて下さい。
平城さん:
奄美博物館が創立から30年以上経過した2019年、その間に大幅に進んだ奄美の自然・歴史・文化に関する研究の成果を盛り込む形で、展示の一新をはかる全面リニューアルをおこないました。
本書はリニューアル後の展示解説文をベースに加筆修正をおこない、新たにコラムなどの読み物を加えています。
加筆修正といっても、ほとんどの部分は博物館の展示解説文をそのまま使っています。
シゼンノ編集部:
本書の殆どの部分が、博物館の展示・解説そのままなんですか! ということは、博物館の展示はかなりのボリュームということになりますよね?
平城さん:
はい、1回訪れただけではなかなか全体を把握しきれないというお声もありましたし、リニューアル時から検討していたことでもあったので、展示解説文を盛り込んだガイドブックとして本書を編みました。
現時点での実際の使われ方としては、奄美博物館を見学いただいた来館者の方が、展示を見てもっとしっかり奄美のことを知りたいな、という思いで買って帰られるということが多いかもしれません。
もちろん、まだ奄美博物館にいらしたことが無い方にも是非手に取っていただきたいので、公式Facebookページなどでも本書の告知をしていますし、実際に島外から購入してくださった方も多くいらっしゃいます。
現在はコロナ禍の問題もあって、遠方から奄美や奄美博物館を訪れることがなかなか難しい状況ですが、予習として読んでいただき、博物館を訪れた際に新たに興味を抱いた部分について読み返していただくなどの使い方もできるのではないかと思っています。
シゼンノ編集部:
なるほど、実際の展示は自然・歴史・文化と多岐に渡っていますし、それらの展示を見て、本書を読むだけでは気付けなかった面白さに気付くことも多そうですね。
展示ということでいえば、本書では自然・歴史・文化がそれぞれ独立して章立てされているというよりも、互いに融合するように、密接に関わり合って記されているような印象を持ったのですが、博物館ではどのように展示をされているのでしょうか。
平城さん:
当館は、展示スペースが3フロアに分かれていまして、まず1階は、シマウタや、消滅の危機にある言語・方言にも指定されているシマグチ、奄美の伝統的漁業などについて知っていただくための展示をしています。
2階は奄美の歴史についての展示です。
奄美大島は琉球国、薩摩藩に、米軍政府に統治されている時代もありましたので、そういった教科書に載ることのない複雑な歴史を主に紹介しています。最近では、高校の歴史の教科書や資料集に掲載されることも増えてきました。また、薩摩藩統治時代に描かれた『南島雑話』についても、詳しく解説しています。
3階は、自然と文化をテーマにしています。
奄美大島の世界自然遺産登録に伴って、国が世界遺産センターを作ることが決まっていましたので、当館では自然だけを掘り下げて紹介するのではなく、自然と文化を織り交ぜた展示にすることにしました。そういう意味では、ご質問のとおり、自然と文化を融合させた展示になっていると思います。
また、国内で34番目に登録された「奄美群島国立公園」では、「環境文化型国立公園」という他の国立公園に無い概念が提唱されました。これは、人と自然が密接に関わる中で自然が守られてきた奄美ならではの概念で、当館ではその「環境文化」という考え方を全面に打ち出した展示を行っています。
この「自然と文化」を象徴する展示として、「シマの一年」というコーナーがあります。1月から12月のそれぞれの月に行われる行事や観察できる生き物、旬の食材などを紹介しています。
そのコンセプトとなっているのが、「奄美旧暦行事カレンダー」です。奄美では、お盆なども含め様々な行事が旧暦で執り行われているのですが、それらの日取り、干潮と満潮の時刻、新月と満月などの情報を全て盛り込んでいて、毎年度発行しています。
奄美旧暦行事カレンダーには文化版(A4サイズ)と自然版(A3サイズ)の2種類あります。文化版は行事や食材などの写真、自然版は動植物の写真がメインです。
これは島外からも人気があり、注文があった場合は発送を行っています。
シゼンノ編集部:
なるほど! それで本書の第三章の中の「シマの一年 ー受け継がれる自然と暮らしー」の項が、そのような書き方になっているのですね!
平城さん:
そうですね。ある意味あまり博物館っぽくないといいますか、分野ごとに分けて資料がズラッと展示されているという感じではなくて、自然も文化も融合させた展示にしています。
(後編につづく)