博物館
高尾山の麓にあるミュージアム
シゼンノ編集部
今回取材したのは、東京・高尾山の麓に建つ TAKAO 599 MUSEUM。
博物館法上の登録博物館や博物館相当施設ではないものの、学芸員が複数名所属し、高尾山の自然の魅力を伝える施設として2015年8月11日にオープンした。(2016年から始まった「山の日」を1年先取りしてのオープンだ。)
今回はそのTAKAO 599 MUSEUMの魅力を掘り下げていきたい。
(取材日:2022年7月13日)
(今さらながら)高尾山とは
高尾山といえば、年間の登山客数が世界一とも言われる東京の観光名所だ。
その麓にある京王線高尾山口駅へは、東京都心の新宿駅から電車で1時間足らずという好立地でもあり、行楽シーズンともなれば平日でも人が途切れることのない賑やかな場所である。
標高は599mと東京スカイツリーよりも低く、高尾山から西に伸びる「奥高尾」と呼ばれる山域まで含めても1日で無理なく全山縦走できる程度の広さである。
だが、このように「大自然」といったイメージとはかけ離れた山域であるにもかかわらず、そこには驚くほど豊かな、日本有数と言っても過言ではない生物相があるのだ。
なんと、自生する植物種は周辺地域も含めると1600種以上、昆虫は約5,000種、野鳥は100種以上、哺乳類は約30種と、奇跡とも言うべき多様性を誇る。
このように稀有な場所である高尾山の自然の魅力を掘り下げ、広く紹介するための施設がTAKAO 599 MUSEUMだ。
施設の成り立ちとコンセプト
TAKAO 599 MUSEUMは、高尾山の麓、京王線高尾山口駅から徒歩4分の場所に立地している。
そこにはかつて、東京都立高尾自然科学博物館があったのだが、都の財政難などを理由に2004年に廃館となった。
TAKAO 599 MUSEUMは、その跡地と収蔵品を引き取る形で、八王子市が設立した施設である。
開設に当たっては、どのようなコンセプトにするのかで非常に多くの議論と対話が繰り返され、最終的に世界的にも有名なデザイナーである日本デザインセンターの大黒大悟氏によるデザイン案で決定し、竣工した。
そのデザイン性は、施設に1歩足を踏み入れた瞬間に誰もが感じ取れることだろう。なにしろ、第一印象は「美しい」の一言に尽きる。
実際、高尾山目当ての観光客が多いこの地にあって、高尾山ではなく大黒大悟氏のデザインを目当てにTAKAO 599 MUSEUMを訪れる外国人観光客もいるほどなのだ。
通常の博物館では、展示室に入った瞬間に展示物が視界に飛び込んでくるが、TAKAO 599 MUSEUMでは、それぞれの展示台に近寄って、わざわざ中を覗き込まないと展示物を見ることができないのだ。
TAKAO 599 MUSEUMの施設自体は外壁もガラス張りで、非常に見通しの良い開放的な空間設計になっているのだが、展示台だけ何故このような作りになっているのだろうか。
それは、来館者自らの「覗き込む」という能動的な行為を通じて、擬似的な「発見」を体験することを意図しているからである。
つまり、このような展示台は、ただ漫然と眺めるだけの展示と異なり、見学者に対して「あっちの展示台には何があるのだろう?」というワクワク感(言い換えるならば「好奇心」)を喚起させることになるわけだ。
特に初めて訪れた人にとっては、プレゼントの箱を1つ1つ開封していくような楽しい見学体験となることだろう。
このようにTAKAO 599 MUSEUMでは、そのコンセプトの1つである「好奇心の入口」を具現化するための仕掛けが随所に散りばめられている。
展示のコンセプト
かつての高尾自然科学博物館は、東京都立であるため、東京都全体の自然に関する展示がおこなわれていた。
しかしながら、新たに八王子市が主体となって開設することとなったTAKAO 599 MUSEUMではそれを踏襲するのではなく、「高尾山らしい展示を」ということで計画が進められた。
その結果、TAKAO 599 MUSEUMでは高尾山の動植物に絞って展示・解説を行なっている。
とはいえ、先にも触れたとおり、高尾山の生物相は大変豊かであり、多様性に富んでいる。「高尾山らしい」と言っても、何をもって高尾山らしさとするのか、限られた展示スペースの中でそれをどのように表現するのか、苦心と工夫が凝縮されている。
後編では、その展示内容や、施設としての取り組みなどのソフト面について取り上げることで、TAKAO 599 MUSEUMにおける「高尾山らしさ」の表現に迫っていきたい。