博物館
魅力的な化石の数々と展示のこだわり
シゼンノ編集部
前編では、瑞浪化石博物館(以下、「本館」と表記)の成り立ちや全体像について紹介した。
後編では、さらにその魅力を掘り下げていくことにしよう。
(取材日:2023年9月16日)
パレオパラドキシア フィーバー
本館の展示の中心を成すのは、地元・瑞浪層群から発見された化石で、いまでも続々と新たな化石が発見されている。
そんな瑞浪でも、これぞ世紀の大発見とも言える化石が、2022年に発見された。
それが、パレオパラドキシアの骨格である。
もともと本館で展示されているパレオパラドキシアは1950年に瑞浪層群から発見されたもので、国立科学博物館にも展示されるすばらしい標本ではあるのだが、新たに2022年に発見されたパレオパラドキシアはそれを上回るすばらしい状態の化石で、全身の7割の骨が見つかっており、しかもその多くがバラバラにならずつながったままの状態で発見されたのである。
下掲の写真はその産状標本のレプリカで、実物は取材時現在クリーニングの真っ最中である。
この個体、7割もの骨格がまとまって発見されたこともすごいのだが、頭骨の状態が非常に良いのである。
取材に訪れたタイミングでは、ちょうどその頭骨の実物標本が展示されていた。
これほど良い状態で発見されるからには、この個体は死んで間もなく砂や泥に埋まり、波にバラバラにされることなく化石化したのだろう。
とはいえ、体全部がすぐに埋まったわけではなさそうで、肋骨の一部にはフジツボが付着して一緒に化石化しているので、少なくともその部分は白骨化したあともしばらく水中に露出していたのだろう。(下掲の写真は、フジツボが付着していた部分の肋骨)
この発見があったことで、瑞浪市はパレオパラドキシアで沸き立ち、古生物ファンの間で一躍脚光を浴びたのである。
産状標本がたくさん展示されているワケ
本館ではパレオパラドキシアだけでなく、ほかにも産状標本が多数展示されている。
前編で紹介した中学校の敷地造成工事の現場から見つかったクジラの背骨・肋骨(下掲の写真)や、それと一緒に発見されたエゾイガイ、ほかにもいくつかの産状標本が展示されているのだ。
展示標本数に占める割合から考えれば、他の博物館に比べて産状標本の展示が非常に多いと言えるだろう。
これには、産状標本が持つ情報量の多さを大切にしたいという本館の思いが込められている。
というのも、その化石がどのような状態で発見されたのかが見て取れる産状標本は、その化石となった生物がどのように生き、どのように死に、その後どのように化石化したかを考える上で重要な情報を含んでいるのだという。
たとえば、先のパレオパラドキシアでいえば、この個体がおそらく死んだ後にその死体を食べたであろうサメの歯が一緒に発見され、産状標本ではその状態も観察することができる。しかし、クリーニングしてしまえば、パレオパラドキシアとサメの歯は別々の標本になってしまい、それがどのように一緒に発見されたのかの情報が失われてしまう。スケッチや写真が残されようと、それは現物の持つ情報量には敵わないのだ。
実際、1950年に発見されたほうのパレオパラドキシアにもサメに食べられた跡があったというが、それが実際にはどのような状態だったのか、今では情報が失われているのだそうだ。
もちろん、化石を研究するためには、産状のままでは難しい。クリーニングをする必要がある。それでも産状標本でしか残せない情報をできるだけ残したい。このようなことから、本館では産状標本を残すことにも、来館者がそれを実際に見られるようにすることにも、積極的なのである。
一番の見どころは?
ここまで、本館に展示されている魅力的な化石の数々を紹介してきたが、では、本館の一番の見どころはどこなのか。
やはりパレオパラドキシアなのか、それともクジラなのか、ミズナミムカシアシカ(仮)なのか、貝なのか。
その問いを、本館の学芸員である安藤佑介さんにぶつけてみた。
すると、
「一概には言うのは難しいですね。やはり実際に館にいらしていただいて、是非みなさんそれぞれにとっての見どころを見つけてほしいです。」
とのこと。
そうなのだ、どれか1つの標本で当時の様子が分かるわけではなく、たくさんの化石標本や、その化石が産出された地質などを含めて全てが重要な情報の一部を成しているのだ。
であれば、最初からどれか1つにお目当てを絞るのではなく、瑞浪層群という2000万年〜1500万年前の地球の一部を切り取ったとも言える本館の展示全体を余すところなく楽しむことこそ、大切なことだと気付かされた。
もちろん、その後に自分のお気に入りを決めることや、そのお気に入りについてより詳しく学んでいくことは歓迎されるべきことだろう。
ぜひみなさんも、2000万年〜1500万年前の地球を見に本館を訪れてほしい。
(了)