書籍紹介

オーロラは日本でも見られる?!

『日本に現れたオーロラの謎』(片岡龍峰 著)
シゼンノ編集部

『日本書紀』にもオーロラが?

 

オーロラといえば、北極圏や南極などの高緯度の地域で見ることができる夜空の芸術だ。

日本からも、オーロラを見るために遠路はるばるスカンジナビア半島やアラスカを訪れる人がしばしばいる。

また、以前ご紹介した『その犬の名を誰も知らない』の監修者である北村泰一氏は、オーロラの観測をするためにわざわざ南極まで足を運んで越冬した。

それもこれも、日本ではオーロラを見ることができないからだ。

 

しかし実は、非常に稀にではあるけれど、条件さえ整えば日本でもオーロラを見ることができる場合がある。

直近では、1958211日、東北の日本海側や新潟、北海道などで観測された。

もちろん、頻度は非常に低いので、次に日本で見ることができるのがいつになるのかは分からない。

 

そんな日本でのオーロラだが、鎌倉時代や江戸時代の文献や、最も古いところでは『日本書紀』にまで記録が残されていることを皆さんはご存知だろうか。

 

今回ご紹介する『日本に現れたオーロラの謎』は、まさにそのようなオーロラに関する古い日本の記録について、国立極地研究所と国文学研究資料館が合同で調査・研究をおこなった成果を記した本である。

 

国立極地研究所と国文学研究資料館という組み合わせは意外でしかないのだが、実はこの2つの研究機関は東京・立川にある同じ建物の中に入っている。

同居のよしみで分野の大きく異なる研究機関が共同で研究をしたわけで、非常に面白い。

 

 

「赤気」とは

 

日本の古文書に登場するオーロラは、「赤気」という言葉で表されている。

文字通り、赤い光が夜空に浮かぶことから付いた名であろう。

だだしこの「赤気」だが、鎌倉時代や江戸時代の文献に登場する文章や絵からは、北極圏や南極で見られるような、カーテンがゆらゆらしているようなオーロラの姿は微塵もイメージできないのだ。

 

この不思議なオーロラの姿は、本当にオーロラだったのか。

正しくオーロラだったとして、どうしてこんな形なのか。

 

そんな「赤気」の謎を、古文書に描かれた文章と絵から、現代の宇宙空間物理学の知見を使って解き明かそうという試みが、このプロジェクトだったわけである。

 

そのアプローチは、やはり記録を丹念に追うところから始まる。

鎌倉時代の歌人・藤原定家が残した日記『明月記』の文章や、江戸時代に描かれた絵入りの複数の文献などを、前述した1958年に日本で観測されたオーロラの記録と突き合わせながら検討をすすめ、それが正しく科学的な描写であったことを導き出すのである。

 

なお、本書の主眼は日本の古文書に記載された「赤気」の解明に置かれているので、オーロラの仕組みそのものについては、予備知識が無い人には本書だけで充分に理解することが難しいかもしれない。

もちろんそこが詳しく分からなくても、本書を読む楽しさは決して失われないのだが、もしオーロラの仕組みについて詳しく理解したい場合には、同じ著者による『オーロラ! (岩波書店)や『宇宙災害:太陽と共に生きるということ』(化学同人)なども読んでみると良いのではないだろうか。

 

 

余話

 

国立極地研究所の展示施設である南極・北極科学館には、直径4mの全天ドームスクリーンにフルカラーでオーロラの映像が投影される「TACHIHIオーロラシアター」という設備がある。 日本の空でオーロラが観測されるその日を待つよりも、東京・立川の南極・北極科学館で疑似体験してみては?


2021年05月30日
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