フィールド
チバニアンのゴールデンスパイクを見てきた(後編)
シゼンノ編集部
前編では、チバニアンについて事前学習をする施設であるチバニアンビジターセンターまでの話だった。
今回は、いよいよゴールデンスパイクが設置された現場についてレポートしていきたい。
(取材日:2022年6月4日)
いよいよ露頭へ
チバニアンビジターセンターからゴールデンスパイクまでは徒歩で10分もかからない距離だが、なかなかの急坂を降ることになる。この道の最大傾斜は18度だそうで、足腰に自身の無い方はお気をつけいただきたい。
道は途中まで舗装路だが、その後、よく整備された登山道のような道となる。
おそらく普段から地面が湿っていて滑りやすい状態が多いと思われるので、不整地を歩くのに適したスニーカーなどで行くことをオススメしたい。(登山靴だとオーバースペックかもしれない。)
そんな道の最後は階段状となり、これを降りると養老川の川辺りに出る。
そこが、まさに千葉セクションの露頭である。
川岸は狭く、露頭全体を真正面から一望するには川の中に入るしかない。(上掲の写真も、対岸近くまで川の中を移動して撮ったものだ。)
そのためにも、川の中に入れるよう、ぜひ長靴を持参することをオススメしたい。それも、スネがすっかり隠れるぐらいの長めの長靴がオススメだ。
ちなみに、取材担当者はこの日岸辺で、持参した日本野鳥の会謹製のバードウォッチング長靴に履き替えた。
公共交通機関で移動する悲しさで、普通のイカツい長靴では荷物が嵩張ってしまう。かといって、ビーチサンダルやマリンシューズのように足を濡らす前提だと、渓流の水が冷たくて、川の中に長時間いるのはキツい。
ということで、コンパクトに折り畳めて膝下まで長さのある日本野鳥の会のバードウォッチング長靴一択だった。
とはいえ、単に露頭を正面から見るだけならば、ここまで長靴に拘る必要も無い。安全上の理由から推奨はできないものの、ビーチサンダルでもなんとかなるかもしれない。
だが、川の中に入っていく理由はそれだけではないのだ。
長靴を履いて養老川を楽しもう
長靴を履いて川に入る第1の理由は、川底にある化石をじっくり観察するためである。
『チバニアン誕生』の紹介記事でも触れたが、この露頭の近辺の川底は貝の化石や生痕化石を見ることができる。それらを探して観察するには、ある一定以上の時間と範囲で川の中を散策しなければならない。(ビーチサンダルやマリンシューズなどで足を冷水に晒されていては、落ち着いて観察もしていられまい。)
こうして観察した化石の一部がこちら。
貝の化石。
何か(多分無脊椎動物だろう)が這った跡の化石。
地味だが、古生物好きにはたまらない(はず)。
なお、水温が高く、かつ、好天が続くと、川底に藻が繁殖して化石の観察が難しくなるそうだ。(しかも、藻が着くと川底が滑りやすくなるので、より注意が必要だ。)
そして第2の理由は、素掘りのトンネルを間近で観察することだ。
房総丘陵には、水田用の灌漑のために手作業で掘られた「二五穴」と呼ばれる幅2尺(約60cm)、高さ5尺(約150cm)ほどの小さなトンネルが多数ある。(この寸法が名前の由来である。)
この二五穴は房総丘陵に特徴的なもので、多くは江戸時代後期から明治にかけて作られ、いまでも現役バリバリで水の通り道となっている。(千葉県立中央博物館でも詳しく展示・解説されている。)
その1つが露頭の川下約100mのところにあるのだが、間近で見るためには川の中を歩いて移動しなければならないのだ。この移動も、マリンシューズよりは長靴の方が安心だろう。(ビーチサンダルは安全上の理由から全く推奨できない。)
他にも、川底にはポットホールがあったりなど、千葉セクションの露頭周辺にはチバニアン地層以外にも色々と見ておくべきものがたくさんある。
そして何より、川岸よりも川の中からの方が、渓流の景色が圧倒的に美しく見える。
このようなわけで、長靴持参を強くオススメするのである。
そして、ゴールデンスパイク
さて、話が肝心のゴールデンスパイクから完全に逸れてしまったが、露頭脇には、打ち込まれたゴールデンスパイクを間近で見られるよう、それ専用の階段が設けられている。
それを上がれば、こんな風景が目の前に現れる。
そう、今回の主たる目的は、これを実際に自分の目で見ることにあったのだ。
「ゴールデン」という名が冠されているが、素材は真鍮。
なので、この物体自体の金銭的価値はタカが知れているし、学術的価値もこの物体そのものではなく、あくまで露頭や地層にある。
ゴールデンスパイクという物体の価値は、あくまでチバニアン認定の象徴としてのそれである。
だが、せっかく打ち込まれたゴールデンスパイク。
ミーハーと罵られようとも、現地まで行って実際に自分の目で確認したいものである。
そして、「地磁気が逆転しても地球上で生き物は死に絶えたりしないもんなんだな」という根本的な疑問に思いを馳せてみるのが粋というものだろう。
立ち寄りどころ
露頭と養老川をたっぷり楽しんだ後は、またトボトボと月崎駅へ向かって歩く。
その途上に、ぜひオススメしたいカフェがある。
古民家をリフォームしたからこその落ち着いた雰囲気の内装と、そこに置かれたレトロモダンなソファやテーブルがとてもオシャレで、思わず引き寄せられるように入店した。
取材担当者はプリンを食べたのだが、これがまた絶品。
(写真はテラス席で撮影した。そう、広々としたウッドデッキのテラス席もあるのである。)
おかげで、飢えと渇きと疲れが一気に癒された。
電車に乗り遅れてでも是非立ち寄るべきだろう。
(実際にこの後電車に乗り遅れて途方に暮れたが、平日ダイヤと土日ダイヤの時刻表を見間違えた取材担当者の自己責任である。)
(了)