博物館
奈良の自然の魅力を伝えたい
シゼンノ編集部
前編では、ならまち糞虫館の概要について紹介した。
今回は、いよいよ中村館長の思いを掘り下げていきたい。
インタビューの場所は糞虫館の2階にある事務所。
部屋には水槽が複数置かれ、タガメが飼育されていた。
(取材日:2022年6月26日)
フン虫ではなく、タガメ?
シゼンノ編集部:
タガメ飼ってらっしゃるんですね。生きているタガメを見たのは小学生の時以来なので、嬉しいです。
中村館長:
そうなんです、いまちょうど卵を産んでいましてね。
繁殖させて、人にあげているんです。
最近フィールドでタガメを見かけることは非常に少なくなりましたが、本来タガメは繁殖力が低い種じゃないと思うんですよ。やはり、生息環境そのものが無くなってしまっているということなんでしょうね。
シゼンノ編集部:
タガメを飼っていらっしゃることもそうですが、中村さんはフン虫だけでなく昆虫全般がお好きなんですよね?
糞虫館を創設される際にも、フン虫に特化すべきか昆虫全般を扱うべきかで迷われたと『フン虫に夢中』で拝読しました。
ただ、昆虫全般の中でも特にフン虫にのめり込んだのは、どういったことが影響したのでしょうか。
中村館長:
そうですね。『フン虫に夢中』にも登場しますが、やはり中学校の時に出会った石田清くんの存在が大きいでしょうね。
彼が僕にフン虫の面白さを教えてくれましたし、そもそも彼に出会うまでは、私はいろいろな昆虫を捕まえるだけで、調査したり検証したりといったことは無かったんです。
ところが彼は、調査したり検証したりということをやっていた。やはり彼は変わっていたし、頭も良かったし、彼と一緒にフン虫を調査したり検証したりして、いろんな発見をしていくことが面白かったんですね。
その調査結果を一緒に学園祭で「フン虫天国」と称して展示したりしてね(笑)。そういうのが楽しかった。
彼がいなければ、こんなにフン虫にのめり込むこともなかったでしょうし、今こんなことをやっているのは彼のせいでしょうね(笑)。
ステキな内装と普及活動
シゼンノ編集部:
話は変わりますが、館に入ると真っ白な内装で、博物館というよりもギャラリーといった雰囲気ですが、これにはやはりこだわりが込められているんですよね?
中村館長:
はい、この内装も、1つ目の展示室にある球体にピンで標本をとめる展示の仕方も、デザインを手がけてくれた学生時代の同級生の女性の発案です。
彼女が
「ただ虫を並べたって、誰も見に来ないわよ!」
と言って、このような案を出してくれたわけです。
標本をこのような形で展示するという考えなどは、私などではなかなか出せません。第一、ケースに入っていなければ、標本が破損する可能性もそれだけ大きくなるわけですからね。
でも、おかげで、とてもよい展示室になりました。
コンセプトは「奈良を代表するデートスポット」です。
シゼンノ編集部:
なるほど、デートスポットですか!
実際、カップルでお見えになる方も多いですか?
中村館長:
そうですね、もちろんカップルには限らず、お子さん連れのことも多いのですが、カップルでいらっしゃる方もけっこういます。
来館者の年齢層でいうと30〜50代が多いんですが、いらっしゃるのはそういう大人なカップルですね。
シゼンノ編集部:
来館者の方の傾向的には、県内の方が多いんでしょうか。
中村館長:
奈良県内からは4割にとどまっています。
県内も含めて、近畿圏からの来館者が4分の3で、それ以外の遠方から来られる方が4分の1を占めています。
もちろん、奈良に来るご予定が他に有ってついでに立ち寄る、という方も多いですが、わざわざ糞虫館だけを目的に来られるという方もいらっしゃいます。
旅行会社がツアーに組み入れる、なんてケースもありますよ。
シゼンノ編集部:
それはすごいですね! やはりフン虫と糞虫館の認知がどんどん上がってきているということの証左ですね。
ところで、中村さんは館の運営だけでなく、講演や観察会などの普及・啓蒙活動などを精力的におこなっていらっしゃいますが、それはご自身で企画されているんでしょうか。
中村館長:
以前は自前で企画していたんですが、今はいろんなところからの引き合いに応じて企画しています。
たとえば、カルチャースクールから依頼があればシニア向けに、小学校から依頼があれば児童向けに、といった具合ですね。
なにせ、フン虫に関しては私一人でしか対応できないので、今のところはそれで手一杯という感じです。今後はもっと、いろいろな形で館としての対応力を増やしていきたいところではあるのですが。
シゼンノ編集部:
そういった活動が認められて、県知事から表彰されるに至ったわけですね!
(編集部注:中村館長は活動の功績を認められて、今年3月に奈良県知事から表彰を受けました。参照)
中村館長:
いやー、あれはたまたま推薦してくれた方がいらしたもので。
ただ、だからということではないのですが、今後もやはり情報発信はしていきたいですね。
実は奈良には、自然に関する博物館がほとんど無いんですよ。(編集部注:シゼンノでも、他の都道府県に比べて奈良県は掲載施設が特に少ない。)
奈良の自然には、もっと知られるべき魅力がたくさんある。それをもっと伝えていくべきだと思うんですよね。
シゼンノ編集部:
今後も糞虫館と中村さんの活躍に期待しています!
(了)