博物館
ペルム紀の化石と石灰岩に囲まれて
シゼンノ編集部
前編では、葛生化石館(以下、「本館」)の成り立ちと、古生代ペルム紀展示の一部である単弓類について紹介した。
後編では、さらに他の展示について深掘りしていきたい。
(取材日:2022年8月24日)
ペルム紀展示の全貌
本館においてはペルム紀の展示に特に力が注がれているが、その展示はまず海の生き物のコーナーから始まる。
そこには、三葉虫や貝類、魚類などのほかに、ペルム紀末の大量絶滅を象徴する存在であるフズリナの化石も大量に展示されている。
(かつて葛生には、フズリナ化石がスコップでザクザクとすくい上げられるほど大量に産出されるスポットがあったそうだ。)
また、オキナエビス(真鶴町立遠藤貝類博物館のレポート参照)の化石にもお目にかかれる。
オキナエビスが「生きた化石」だということを実感できる瞬間である。
さらに進むと、今度はペルム紀の陸上の生き物のコーナーとなる。
グロッソプテリスとレピドデンドロンといった植物化石や、まさにペルム紀の両生類とも言うべきディスコサウリスクスの化石と並び、地質学的にも非常に重要な生物であるメソサウルスの全身骨格標本が展示されている。
メソサウルスの何が地質学的に重要なのかというと、メソサウルス(他、いくつかの生物)の化石がアフリカと南アメリカの両方の大陸から発見されている点にある。
メソサウルスは湖沼に生息していた生物とされ、海で遠く隔てられた大陸間を移動できるわけもない生物である。
これがアフリカと南アメリカの両方から見つかるということは、かつてアフリカと南アメリカは地続きであったということの証左となり、大陸移動説の根拠の1つとされたのである。
その大陸移動説が、今日では定説となっているプレートテクトニクスの理論を導くのだから、メソサウルスは地質学的にも非常に重要な生物であるわけだ。
化石だけじゃない
本館は「化石館」なのだが、化石以外にも大きな見どころがある。
それは、石灰岩だ。
古生代ペルム紀の化石コーナーに隣接して全国の石灰岩がズラリと展示されており、まさに壮観である。
葛生の古生代ペルム紀化石は石灰岩の地層から産出されることにもちなんで、日本全国の石灰岩を集めて展示しているのである。
この展示は、当時の町長が新潟県青海町の自然史博物館(現在は糸魚川市と青海町の合併により糸魚川フォッサマグナミュージアムに統合され廃館)の岩石展示に感銘を受け、日本石灰工業組合の協力を得て全国から収集し展示に至ったものだという。
そのような経緯で収集された石灰岩標本のため、ほとんどの標本は産出地点が鉱山である。
標本展示の1つ1つには、産出された鉱山名の他に、どのような成分が多く含まれる石灰岩であるかなども詳しく記載されていて、おなじ石灰岩でもこんなにもバリエーションに富んでいるのかと驚かされる。
なお、この展示をよく見ると、いくつかの例外を除いてほとんどはペルム紀の石灰岩であることに気付かされる。このため、日本の石灰岩は古生代のものばかりなのだろうかと思ってしまうのだが、実際は中生代の石灰岩も各地に点在しているそうだ。
ただ、鉱山として効率よく採掘できるような石灰岩脈となると古生代のものがほとんどで、鉱山からの寄贈により収集した関係上、本展示では古生代のものがほとんどとなっているとのことである。
石灰岩を深掘りする
石灰岩のコーナーでは石灰岩標本の展示だけでなく、石灰岩がどのように採掘され、どのように利用されているのかの工業的な展示・解説もおこなわれている。
多くの人は石灰岩というと、セメントや、グラウンドに線を引く石灰を思い浮かべるわけだが、実際の用途はもっともっと広い。
最近では、レジ袋をプラスチック由来でなく石灰石を原料として製造するなど、環境に配慮した製品開発も進めているそうで、エコの推進をいかに進めていくかも石灰工業業界の重要な取り組みになっていることが見て取れる展示となっている。
このように、関連展示から思いも寄らない学びを得られるのも博物館施設の醍醐味の1つだろう。
他にも魅力的な化石がたくさん
今回のレポートでは、ペルム紀や石灰岩に関する展示を中心に紹介したが、新生代後期の大型哺乳類化石も本館においては見逃せない展示だ。
また、毎年夏休みの時期には非常にヒネリの効いたテーマでの企画展が開催されるなど、古生物ファンならば何度でも足を運びたくなる博物館である。
(了)